夜。

奈緒は自宅のベッドの上に寝転んで、天井を仰いでいた。

つきっぱなしのテレビからは、騒々しいバラエティ番組の音が虚しく響く。

気がつくと、いつも阿久津ことばかり考えている。

阿久津は何事もなかったかのように淡々としている。

あの日の出来事は夢だったのではないか、と錯覚してしまうくらいなにもない。

なにも、変わっていない。

あの直後、無事に手元に戻ってきた携帯で時間を確かめる。

確かに時は刻まれている。

時間だけが、無情に流れていく。

その時、手の中の携帯が突然鳴りだし、一瞬心臓が縮こまった。

ディスプレイには「お母さん」の文字。

「もしもし?」

気だるい声で受話器を取ると、

「なんなのよ、その覇気(はき)のない声は」

と地味に注意されてしまった。

「なに?」

寝転んだまま、先を促す。