奈緒は、階段教室から窓の外をぼんやりと眺めていた。

教壇では法制史の教授がぼそぼそ声で授業をしている。

あのぼそぼそ声は、まるで子守唄のようだ。

我慢できないあくびを口を閉じたまますると、頬が少し痛くなった。

頬に手をやった拍子に、指が唇に触れた。

あの晩、なぜ先生は私を抱きしめたのだろう。

なぜ、キスしてくれたんだろう。

ただ、寂しかったから?

それだけで?

考えれば考えるほど、虚しくなった。

阿久津の胸の中が温かかったから、よけいに。

好きだから、よけいに。



しかし、恋にうつつをぬかしてばかりもいられなかった。

いい加減、専門学校に進学したいことを親に連絡をしなければ。

学費を出してもらう以上、ちゃんと説明しなければ。

いい反応が返ってこないのがわかっているだけに、気が重かった。