しんと静まりかえった部屋に、ホットミルクがのどを通る音だけが響く。

時間が止まっているように思えた。

先生、なにもしゃべらない。

なにを考えているのだろう……。

ちらりちらりと阿久津の方を見てみるが、ただ呆然としたままホットミルクを口に運んでいるだけだった。

永久に続くような沈黙に、いよいよ耐えきれなくなってきたころ。

「笑ってたんだ……」

阿久津がぽつり、呟いた。

ちらりと阿久津の方を見ると、マグカップを握り締めたまま、唇をかみしめていた。

「え?」

奈緒は顔を上げた。

「今日……美咲に見せられたんだ。由美が描いた、俺のスケッチ」

由美という名前に、胸がぎゅっとした。

その人は、私の知らない阿久津先生を、たくさん知っている。

笑顔の阿久津先生を、たくさん、知っている。