洗面所で呆然とする阿久津に、

「体が冷えちゃう……風邪ひいちゃう……」

奈緒は半泣きになりそうになりながら、そこにあったバスタオルをつかみ、阿久津の広い肩にかけようとした時。

手首をぎゅっとつかまれ、引き寄せられた。

「このまま……」

耳元で阿久津が懇願するように囁いた。

痛かった。

胸が締めつけられているせいか、阿久津の抱きしめる力が強いせいか。

ただ、涙が溢れた。

阿久津の広い背中に、そっと手を回すと、阿久津はさらに抱きしめる腕に力を入れた。

その間もずっと、阿久津は震えていた。

「先生……駄目です……そんな格好でいたら、風邪ひいちゃいますから……」

胸の中でそう訴えても、阿久津は奈緒を離そうとしなかった。

コートから滴り落ちる水が、小さな水たまりを作っていた。