勢いよく走ってくる車のヘッドライトが眩しいと思った瞬間。

突然何者かに抱きしめられたまま道路の隅へ飛ばされ、塀で背中を打ちつけた。

突然の出来事に何が起こったのかさっぱりわからず頭がまっ白だったが、しばらくして、はっと今の状況に気がついた。

見知らぬ男に抱きしめられているではないか。

「大丈夫ですか?」

その男は奈緒の顔をのぞき込んでいる。

奈緒は無言のまま、うなずいた。

事故に遭いそうだったのと、見知らぬ男に突然助けられたのとで、まだ気が動転している。

「よかった」

その男は、安心した様子で奈緒から離れた。

その時初めて、その男がどんな人なのかを見る余裕が少しできた。

背が高い。

スーツを着ている。

眼鏡をかけていて、その奥には切れ長の涼しい目。

その目が、奈緒を見つめている。

トクン。

心臓の音が聞こえそうだった。