「なに、これ……」

そこは物が押し込まれた部屋だった。

たたまれたベビーベッド、ベビーラック、赤ちゃん用のおもちゃなどのベビー用品が雑然と置かれていた。

奈緒は慌てて扉を閉めた。

……ここは君島先生の家じゃない。

ということは、ここは誰の家なのだろう?

突然怖くなった。

その時、浴室からこの家の主が姿を現した。

濡れた頭にバスタオルを被せて、上はTシャツ、下はジャージ姿の阿久津だった。

眼鏡をかけていなかったので、一瞬わからなかった。

「おはようございます」

何事もなかったように、いつもの調子で淡々と話す。

奈緒は驚きのあまり、すぐに声が出なかった。

「大丈夫ですか?」

「は、はい……」

阿久津は頭を拭きながら当たり前のようにリビングに向かう。

「先生」

広い背中に声をかけた。

「はい」

「トイレ、どこですか」

「玄関のそばの扉です」

「ありがとうございます」

奈緒は逃げるようにトイレにかけ込んだ。