なんだか。

君島准教授が、なぜつかみどころがなかったのか、少しだけわかったような気がする。

自分が同性愛者であるということを常に隠していたから。

それは、本来の君島麟太郎ではないから。

私は、ベールをかぶった君島准教授しか、知らなかったからだ。

ああ。

自分の悩みなんて、君島先生が今まで悩んできたものに比べれば、きっと小さいのだろう。

ただ、マイノリティというだけで、風当たりがきつくて、親にまで勘当され。

君島先生たちはあっけらかんとしているが、ずっとずっと苦しんでいたのだ。

「ねえ、先生」

奈緒は君島の目をまっすぐ見つめた。

「なに?」

「私、先生のこと、全然わかってなかったんだね」

「ん?」