「なあ」
孝太郎は前を見つめながら口を開いた。
「なに?」
「さっき、公園でなにしてたんだ?」
その真剣な声色に胸がズキッと痛んだ。
……私は。
阿久津先生のことを考えていた。
孝太郎のことは。
……考えていなかった。
「ブランコに乗ってた。私、考えたいことがあると、あの公園でブランコ漕ぐの。なんか、ちょっと吹っ切れるような気持ちになれるんだよね」
「……そっか」
それ以上、孝太郎は尋ねてこなかった。
奈緒は、自分の考えていたことが孝太郎に悟られたような気がして、胸が苦しくなった。
再び長い沈黙が訪れる。
無意識に唇を噛みしめていた。
「奈緒」
孝太郎は前を見つめたまま、優しい声で沈黙を破った。