高いところが苦手、とは言ったけれど
それは「たぶん苦手」ってだけであって、
実際は上ってみないとわからない。
昔、親と一緒に遊んでいたら
どこか高いところから落ちて、
大泣きした記憶がある。
その記憶があるから「苦手」って言葉が出たけど
本当は返事がめんどくさいから適当に言っただけ。
ケガをしたわけでもないし、
大泣きしたのは幼児特有のアピールだったと思う。
「僕もまだ上ったことはないんだ。
いつか妻と上る予定だけどね、」
男はお得意の笑顔で私を見る。
「そういえば、
シマウマちゃんと手の上で遊んでいるとき、
あやまって落としちゃったことがあったなぁ」
「え、大丈夫なんですか?」
「うーん、
幸い骨は折れてなかったみたいだけど
あの時は焦ったなぁ・・・。
ハムスターは高さとかがわからないからね、
気を付けないとすぐにピョンって落ちちゃうよ」
「そうなんですか・・・
それは危険ですね、」
「・・・まぁ、
それもいい思い出になったかな」
・・・そう言って笑顔をみせる男だが、
目だけは、笑ってなかった。
気がつけば時刻は9時を過ぎていて、
窓の外は闇そのものだった。
