「そういえば、君は
 どこで降りるんだい?」


「・・あ、次のバス停で降ります、
 南口のバス停で。」


「お、そうなんだ。
 じゃあウチも近いかもね、
 僕もそこで降りるんだよ。」


男は目をこすって私を見てから、

ゆっくりと目線を運転席の方に戻した。


・・・なんだか私は、

とても不思議な気持ちに悩まされていた。

考えれば考えるほど、

懐かしい気持ちになり。

ふと我に返れば、

恐ろしいほどの悲しみに襲われる。


この男の話を聞いてから、

だんだんとこんな気持ちになってきていた。


・・やがて頭が真っ白になり、

今度は何も考えられなくなった。


私は目を閉じて、

南口のバス停に着くのをジッと待った。

瞼の裏には、

小さい頃の思い出がよみがってきている。

母と父と3人でたくさん遊んだこと、

ときにはひどく叱られたこともあった。


なにもかも鮮明に覚えている。

そう考えれば、私の人生は

これまでずっと幸せだったんだと、

今更ながら気づかされた。