タカは殆ど視力の衰えた目でナナを見つめ、しばらくしてから話し始めた。


「君は、僕らが出会った日の事を覚えているかい?」

「もちろんよ。だって、私には“忘却”という機能はないんでしょ?」

「そうだったな。僕もあの日の事だけは、今でもはっきりと覚えているよ。

天馬博士の心臓の鼓動を僕が絶えずキャッチしていて、それが止まったから此処へ来たと言ったね?」

「そうね。でも、全部嘘だったのよね?」

「それがそうでもないんだよ」

「えっ、そうなの?」

「ああ。実は君に隠してたんだが……」

「まだ私に隠し事があったの? あなたって人は……」


ナナは目を丸くしてタカを見た。何十年も連れ添ったのに、まだ二人の間に隠し事があったとは、夢にも思わなかったから。