「私の事は、何でも知ってるんでしょ?」

「いいや。今まで話した事以外は何も知らなかったよ。例えばナナが、こんなにチャーミングな女の子だった、とかね」

「まあ、お上手を言うのね?」

「アンドロイドのクセに、かい?」

「ち、違う!」


「おやおや、怒った顔も素敵だよ? 此処へ来てから、僕の体液のペーハー(ph)が僅かにバランスを崩しているのだが、それはナナ、君のせいかもしれない」

「今後、そういう事は言わないでください」


ナナは、低い声でそう言い放った。まだあどけない顔には、怒りではなく悲しみが漂っていた。


「ナナ、君を賛辞してはいけないのかい?」

「違うの。私が聞きたくないのは、体液とかペーハーとか、そういう話。私はあなたを、人間だと思いたいの」

「ナナ……」


二人はしばらくの間、無言で見つめ合うのだった。