母さんの家に到着すると、由梨のボディガードは「よろしくお願いしますね」と言って帰っていった。


「ただいまー」


家に入ると、母さんが吹っ飛んできた。


「由梨ちゃん! 大丈夫だった?」


由梨は苦笑いして頷いた。


「はぁ〜、どうなるかと思ったわー」


母さんが、よっぽど由梨のことを心配していたのか、どっと息を吐く。


「お姉ちゃん、もうしばらくここにいていいよね?」


「え、何言ってんの? いいに決まってるじゃない」


「ふっ、さすが母さん」


「どこがおかしいのよー!」


「いや、何でもないけど」


やっぱりこの気楽さが俺には合っている。きっと由梨にも。


「優奈、そういえば高校入るとしても勉強大丈夫なのか?」


「え、優奈?」


母さんが不思議そうに見てきた。


「うん。本名は優奈って言うの。嘘ついててごめんなさい。でも、ここでは由梨がいいな」


「じゃあ私は今まで通り由梨ちゃんって呼ぶわー」


「え、じゃあ俺も」


「そっちの方が聞き慣れてるから。勉強は大丈夫だよー。一応、高校の理系文系全ての教科、中二くらいで何訊かれてもすぐ答えられるくらい勉強したからね」


「え、じゃあ余弦定理は?」


「aの二乗イコールbの二乗たすcの二乗たす……」


俺は言葉の途中で手を振って遮った。


「もういいもういい」


「え、まだ途中じゃん」


「そんだけパッと言えれば証拠になってるわ。じゃあ、俺は寝てくる」


「あ、そうそう。羚弥、学校からどうしてますかって連絡来たけど、サボりましたって言っといたわよー」


「は!? 何言ってんだよ母さん!」


母さんは爆笑しながら「冗談だって」と言った。


「はぁ、おやすみ」


二人の「おやすみ」という言葉を聞いて、俺は部屋に行った。