―…現在。夏休み前。病室。



「恋奈…笑った顔が見たいよ…起きようよ。」



俺はあの日から笑えなくなった。


気を紛らわすために、アイドルになった。


今なら、悠樹。お前の気持ちがわかるんだ。


お前、気付いていたんだろ?


お前の母さんが、自殺したのは、いじめなんかじゃなくて、


殺されたかもしれないなんて事を。


気付いてしまったから、変わってしまったんだろう?


でもな、悠樹。


親への愛情と恋人への愛情は、違うんだ。



―ガラッ



誰かが来たので振り返ると悠樹だった。



「来てたのか。海斗。」

「あぁ。」


「恋奈は、幸せだよ。きっと。」


「悠樹…」


「なに。」


「やめとけよ。恋愛なんて。」



苦しいだけだから。


1度絶望を知っているお前は、


大切な人をもう1度失ってしまったら、


壊れてしまうだろうから。


お前に、恋は勧められないな。



「海斗は意外と小心者だな。」


「うるさい。」


「大丈夫だ。僕が好きな娘は、もとから消えそうな娘だから。」


「どんな娘だよ。それ。」


「本当の世界に、今にもつぶされそうな娘。」



ほんとうの…?


またお前、俺の知らない世界に足突っ込んだのか。



「大切なものをみんな奪われて、独りぼっちの女の子。でも、笑うとかわいくて、助けてやりたくなる娘。」



あ…思い出し笑いしてるこいつ。


俺の注告丸無視だな。


でも今まで見た事ない、柔らかい表情だ。



「恋奈は…起きるかな?」


「起きるさ。この子は。君がそばにいる限りね。」


起きるかな。恋奈。


もし起きたら、笑ってくれよ。それから―…




一緒にお前の兄貴、冷やかしてやろう。