『いらっしゃい。どうぞこちへ。』



「あ…はい。」


見た目に合わない喋り方だなぁ…


『悠樹は、仕事でしょ?』


「はい…ですが、」


『やるべきことは、やるべきだわ。』


「はい。それでは。」


えっ行っちゃうの?


私はとっさに悠樹君の制服のすそをつかんだ。


なにしてるんだろう。


馬鹿みたい。


でも、


放せない…?



「えぇっと、花音?」



話しかけられて、初めて我に帰った。



「あっ…ごめん。いってらっしゃい。」


「うん…?」



寂しいな。


―どうして?


―ぱたん―


クスクス…―


はっ、忘れてた!


『ねぇ、彩野さん。お話したくて今日、家によんだの。』


「はぁ…」


『奇妙でしょ。若すぎるって。』



はい。奇妙ですなんていっちゃまずい。



「まぁ、はい。」



これが1番無難だろう。


『私はね夫の再婚者なのよ。つまり、悠樹と血はつながってないの。』


それにしても若い。28ぐらいに見える。


『悠樹はなんだか誤解しているみたいで、いっつも他人みたいに私と話すのよ。』



「まぁ、確かに。」


何が言いたいんだこの人。


『そうだ、あなたに頼みがあったの!』


わぁーお。本物の天然さんか?


こっちよ。と手招きする彼女の笑顔は、少女みたいで、


少しだけ、羨ましかった。


世界を知らない、笑顔。

私の失ったものだから。