「あなた、遅くなったけど……誕生日おめでとう」

 目を開かない彼の手を握りながら、私は言った。

 伝えたいことは、いつもたくさんあったのに、どうしてそのとき伝えなかったんだろう。
 溢れる想いはいつも胸の奥にしまって、どうして彼に伝えなかったんだろう。
 後悔先に立たずという、立派なことわざが私の頭によぎる。

「あなた……」

 朝日が昇っても、彼は瞳を開かなかった。


「ひかり……」

 いつの間にか眠ってしまったらしい。
 目を開くと、眩しい陽光が目に痛い。

「ひかり」

 夫の声が聞こえる。
 はっとして、私は顔を上げた。

「あなた!」

 夫が私を見て、

「心配をかけたな」

 照れたように笑う。私はそっと夫を抱きしめた。
 溢れる涙が止まらなかった。

「おかえりなさい、あなた」
「ただいま」


 もう、後悔はしたくないから。
 これからは、きちんと思いを言葉にしようと思う。

「あなた、お誕生日おめでとう」
「……ああ、そうだったな」
「あなた、愛してる」