「辻村真二(つじむら しんじ)。よろしく」 冷たい響きを持った、耳になじむテノール。 「じゃあ、辻村の席はそこな」 担任が指さしたのは、なんと私の後ろの席だった。 わーお。 道理でいつもは無い机が背後に置いてあると思った。 こういうことだったのか。 辻村くんは担任の声に微かに頷いて歩き出すと、クラス中の視線をものともせず、私の横をするりと通り抜け、静かに席に着いた。 カタン、という、彼の椅子が床を叩いた音だけが響く。