「……っ!?」
しかし、目の前に立っていたのは予想もしてなかった人物。
「なんで……」
ここにいるの?
そう訊こうとしたけれど、まだしつこく私の頭に巣食っている痛みのせいで、いつもより緩慢にしか言葉が紡げなくて。
私が言い終わる前にその人は部屋の中にするりと入ってくると、後ろ手にドアを閉めた。
そして、はあ、とため息を吐く。
やがて視線を私に向けて、
「この、馬鹿」
と、いつもどおりのテノールで、呟いた。
「……っ」
瞬間、心臓がドクンと強く打って。
心が、ぶわっと熱くなった。
「つ、辻村く……」
考えるより先に、そう、呼んでいた。
ダメだ、涙、出る。
そう思って、慌ててドアから部屋の方へ180度方向転換。
目尻にたまった涙を悟られないように、辻村くんに背を向けたままさりげなく手の甲で拭った。
……つもりだった。


