「とにかく、俺はなんて言われようとアイツとはもう会うつもりねぇから」
「辻村くん」
「だから、お前もアイツのことは忘れろ。……いいな?」
「だけど」
「長谷川」
強い口調で私の声を遮った辻村くんは、ふっと諦めたように笑った。
「……いきなり変なことして悪かった。今日はもう、帰るわ」
「え……」
私が引き止める間もなく、辻村くんは手早く机の上に出しっぱなしになっていた教科書を鞄に仕舞う。
そして、いつの間にか床に落ちていた、きっともう溶けてしまっただろうアイスの袋を拾い上げると、あっという間に部屋から出ていってしまった。
────パタン、という部屋のドアが閉まる音、そして玄関のドアが閉まる音が、どこか遠くで聞こえたような、そんな感覚。
私はベッドにぺたんと座りこんだまま、動くことができなかった。
無意識のうちに、左の手首を右手で掴んでいる。
まるで、大切な物に触れるかのように。


