営業部のあるフロアはいつも人の出入りが多く、そこで事務をしているあたしはこの賑やかさが苦手。


異動願いを出してみた事はあるけど、入社してから3年経った今までで二回提出したそれはまだ受け入れて貰えないらしい。


「繭(マユ)さーん!」


苦手な雰囲気に息が詰まりそうになって5分だけと決めて席を外すと、途端に何とも耳に付く声に呼ばれて眉をしかめる。


「繭さん、どこ行くんですかー?」


無視を決め込んで廊下に出たあたしの顔を人懐っこい笑顔で覗き込むのは、同じ営業部の橋本壱吾(ハシモトイチゴ)。


一年後輩の彼は、何故か入社直後からあたしに付き纏っては、こうして馴れ馴れしく接して来る。