鏡の国のソナタ

「うわうわうわ……」

腰を抜かしたまま、じりじりと後ずさった。


と。


みゃぁ~……。


猫の声がした。

一瞬、素奈多の頭の中の回線が、ぷつぷつと何本か切れた。

コートの裾を揺らして現れたのは、茶色と黒のキジトラの猫だった。

「キジタロー……?」

いつも、医学部の裏門のあたりをなわばりにしている野良猫だ。

いや。

猫を連れて帰ったはずもないし、いくら猫だといっても、その大きさのものがポケットに紛れ込んでしまうわけもない。