鏡の国のソナタ

声が震えないように、素奈多は努めて平静を保った。

五年……。

医学部に入って、佐藤九嵐の所属していた研究室に入って、ここに留学するまでに五年かかった。

五年は、長い。

人の心がすっかり変わってしまうのに、充分な時間だった。

「こちらです」

男は、事務的に頭を下げ、くるりと素奈多に背を向けて先にたって歩き出した。

機械的に足を動かし、素奈多は男のあとをついて歩く。