高等部の授業が終わると、素奈多(そなた)はいつも隣接する医学部の裏手を通って駅に向かう。

医学部の裏門は学生の通用口になっているので、運が良ければそこで憧れの佐藤九嵐(くらん)先輩に会えるからだ。

会えるといっても、いつもほんの一瞬。

すれ違ったり、遠くから姿を見かけたりするだけだ。

運良く誰かと話している声を聞けたりすると、素奈多は幸せで舞い上がる。



いつものように医学部の裏門で、野良猫と遊びながら、素奈多は時間を潰していた。

キジトラの、目が金色に光る猫。

素奈多は、キジタローと呼んでいた。

学生から煮干しや鮭弁の鮭をせしめて生きているらしく、媚びの売り方は天下一品の猫だった。