「ぐす、っ……あれは十六夜じゃねぇんだ。ぜってぇ違うんじゃ!神楽、来い!」


「え、総大将!」


急に立ち上がり神楽を従えてどすどす、と部屋へ向かった。そこは夫婦の部屋。側近の神楽は入れないため開け放たれた障子の前から夫婦の部屋を覗くと十六夜は方膝を立てて天堂を見ていた



「十六夜、か…?」


「は?ついに呆けるほどにまできたかぁ」



恐る恐る聞いた天堂に鼻で笑ってそっぽを向いた十六夜。天堂は絶望したような表情になった



「こ、こんなのっ、十六夜じゃねぇ!」



ばっ、と走り去った天堂を十六夜が気になるが天堂を追いかける神楽。何がどうなっているのか分からない…



「総大将、泣かないでくださいよ…どうぞ、鼻出てますよ」



泣きたい気持ちは分かる。愛して愛されておしどり夫婦として百鬼たちに留まらず日本中の妖怪に有名だ。日本中の妖怪の頂点に立つ存在がこんな往来で……



「ぐす…ずびー」



鼻を噛んだ天堂は真っ赤になった目と鼻で顔をあげた。それを見ていた妖怪たちは目を見開いているが何事もなかったかのように通り過ぎる