「この前約束した話し。あれ、僕のお気に入りの場所でやらない?」



約束……。


そういえば、解放された時に沖田と剣の稽古をすると約束していたのを思い出す。


「……お気に入り場所って、いったい何処なんですか?」


「それは秘密。今度合った時に時間とか決めよう。それじゃあね。」


「お、沖田さん……!」


白鳴の返事も待たずして、沖田は去って行った。


まさか、あの時の約束を覚えているとは、思ってもみなかった。


なんたが、次に会える時が楽しみだ。


白鳴は自然に微笑んでいた。



武市からの用事をすませると、夕日が赤く染まる中、白鳴は寺田屋へと戻るのであった。







朝になると、白鳴はいつものように袴に着替えようとするが、ふと押し入れの中に直した着物のことを思い出す。


武市の役に立つため、女ではなく男の着物を着ていたが、もうその必要はないのかもしれない。


せっかく龍馬が誂えてくれたのだ。時が来るまで、女の着物を着ていた方がいいだろう。


白鳴は着ようとしていた袴を脱ぎ、押し入れの着物と入れ替え、それを着た。


広間へ行くと、武市だけがそこにいた。


中岡と龍馬はまだ薩摩藩邸から戻って来ていない。そして以蔵も見回りで寺田屋を空けていた。


「おはよう。」


「あ、おはようございます。」


「そんな所でボンヤリしてないで、自分の席に座りなさい。」


「はい。」


白鳴は自分の席に座る。目の前には御膳が用意されていたが、それよりも前に座る武市が気になる。


ちらりと武市を見ると、視線が合ってしまう。


「なんですか?」


「い、いえ!なんでもありません。」


慌てて視線を逸らす白鳴。


これでは挙動不審である。


「………。」


だが、少しばかり期待していたのも確かだ。武市が昨日とは違う格好をしている白鳴に気づいてくれるとそう勝手に思ってしまっていたのだ。


脆くも淡い期待だったようだが…。


「……着物、着替えたのですか?」


「え?」


「昨日とは違う姿なので。」


どうやら武市はちゃんと気づいていてくれたようだ。


表に出して変わったとは言わないが、しっかりと見ているところは見ているのだ。


「はい。…あの、以蔵はまだ帰らないんですか?」


「もうすぐ戻ってくる。」


そう言っているうちに、玄関の扉が開く音がする。