それから、数日後……、


白鳴はそれまで世話になった島原から、夜霧のように、静かに出て行った。


向かうは都の隅にあるという神社。


そこに武市がよく来るという情報を得ていた。


神社にたどり着くと、そこはしんと静まり返っていた。


人気もなく、風がヒンヤリとしていて気持ちがいい。なんとなく、昔感じた風と似ている感じがした。


すると、辺りの気配が変わる。


何かが背後から近いて来る。


スウッと伸びて来た手を振り払い、刀を構える。すると、相手もそれを予測していたのか、刀を抜いていた。


「……!」


赤い着物を着た厳つい顔の男…。


「お前、やっぱり浪士組の奴か!」


「えっ……?」


浪士組……?


それって………。


「さては師匠を追って!でやっー!!」


「!」



キンッ!!


刃が交わる。さすがに、男の力だけあって凄い力だ。


だが、ここで引き下がるわけにはいかない。なんとか切り抜けなければ…!


「うっ…!!」


重くのしかかる刀を、力いっぱい弾き返す。両者勢いで後方へと退く。


だが、刀を構えたまま、敵を反らすことはない。


男が再び地面を蹴り上げ、襲い掛かってくる。


「やめろ 【以蔵】。」


「……!」


別の男の声で、振り上げられた刀が、ピタリと止まる。


すると、神社の物陰から男達が出て来る。


「!」


細くたなびく髪を一つに結い上げ、青い着物に身を包んでいるその男こそが、長年白鳴が思い続けて来た人だ。



ーー武市半平太。



別れた時とは、かなり印象が違って見える。と、いうことは……、


「おう!また、喧嘩をしよんのか?以蔵!」


「……!」



ーー坂本龍馬。



「もう!以蔵君は気が短いから、困るッス!」


龍馬の後ろから来る人と、以蔵と呼ばれた人達と現れる。


彼は武市達の仲間だったのだ。


呆然と二人の姿を見ながら立ち尽くす白鳴。まさか、本当に会えるとは思ってもみなかった。


以蔵と呼ばれた男は、握っていた刀をしまう。


「……ほう、以蔵とやり合って無事とは大した女子じゃ!」


にこりと笑って白鳴の前に龍馬がやって来る。


変わらない……。


あの時と何も変わらない笑顔を向けてくる。


「おまん、名はなんと言うんじゃ?」


「…………。」


白鳴の前へ来て尋ねてくる龍馬。