「う、裏庭の……し、しし、茂みの中の漬物桶が……!」


「漬物桶……?」


「漬物桶から…また…こ、声が……!」


事を思い出し、怯えて背中を丸くして震える桜。


「声……?ああ!あの漬物桶のことね…!」


ようやく、桜があわてふためきながら怯える理由を、ようやく理解する。


きっと、裏庭の桶に漬け込まれている人のことを言っているのだろう。知らない者からすれば、恐がって当然のことだ。


「あれは、金の工面が出来なかった者が入っている桶だ。何も驚くことはない。」


「え……?」


「ここは遊郭ではあるが、金がなくなれば、男とて罰を受けるのだ。それだけのこと……、それにしても、引き取り手がなかなか来ぬな……。」


もう、あそこの桶に入ってだいぶ絶つ。そろそろ、引き取りが来てもおかしくはない。


それに、引き取りが来ない場合は役所に引き渡すことになっている。哀れではあるが、それもまた仕方のないことである。





一方、白鳴は永倉から教えられた場所へと向かっていた。


夕刻までに戻らなければならないが、壬生寺に着く頃には、すでに日が傾きかけ始めていた。


白鳴は急いで中へと飛び込んで行く。


「うわっ…!」


「きゃあっ!」


角を曲がった所で誰かとぶつかりそうになる。


「な、なんだ!貴様は…!」


「あ、あの!人を捜しているんです!」


「人……?」


「藤堂平助という方をご存知ありませんか?」


「藤堂……?なんだお前は藤堂の客か。ここまで押しかけて来るとは、なかなか大した女だな。アハハハ…!」


笑い飛ばす男。なんだが柄が悪い男だ。だが、引き下がるわけにはいかない。


「何処にいるんですか?」


「藤堂君に会いたいのか?」


「出来たらそうしてもらえると助かります。」


「ふむ……、そうだな……。藤堂君は今外出中だ。帰ってきたら、君が尋ねて来たと、教えておこう。」


「何を勝手なことを言っているのです【新見】さん?」


「!」


後ろから別の眼鏡をかけた男が現れる。


「さ、【山南】君…!」


「彼なら、まだ屯所にいますよ。」


「いや、そのなんだ、私は別に……!」


あわてふためきながら、もっともらしい理由を探そうとする新見。こんな所で年若い女を相手に、嘘八百並べるとはみっともないものである。