二人は川の近くにある、桜の木の下の土手に座り、風景を眺めながら、買ってきた団子を食べていた。


沖田は白鳴の事情を知ってか知らずか、嬉しそうに団子を食べている。


それを横目で見ながら、白鳴も団子を食べた。


春風が二人の間を、優しく通り抜けていく。


川の水がキラキラと光り、青く澄んでいた。


「……ねぇ、そろそろ教えてくれないかな?」


「え……?」


「君の名前。この前、教えてくれなかったでしょう? だから、そろそろ教えてよ。僕だけ名前を知らないのは、おかしいでしょう?」


「………。」


教えていいもの……なのだろうか……。


仮にも自分は身や芸を売る芸妓。


普通なら尋ねられても、答えるだろうが、なぜだが、沖田を前にすると、答えていいのか、疑問が浮かんでくる。


「見知らぬ男には、答えたくない……か…。」


沖田は白鳴の気持ちを悟ったのか、おもむろに立ち上がり、引き返そうと川に背を向けた。


「……何処へ行くのですか…?」


「そろそろ帰ろうかと思って、ここにいたら、君に悪い気がするから……。」


「!」


少し寂しそうな沖田の顔が、なぜだかギュッと白鳴の胸を締め付ける。


白鳴は思わず立ち上がり、自分に背を向けて行こうとする沖田に声をかける。


「待って下さい!」


自分でも驚くほどの声で、白鳴は沖田の足を止めた。沖田が自分の方を振り返る。


「………白鳴です。私の名前は白鳴です。」


「……白鳴ちゃん?」


「はい……。」


なんて言葉が返ってくるのか、なぜだか怖く感じていた。なぜ、自分がこんなことを言っているのかが分からない…。


白鳴は顔を背けたまま、そう答えていた。


「……かわいい名前だね。」


「えっ…!」


「君にぴったりの名前だ。」


「………!」


優しい笑顔で沖田が言う。自分の名前をそんなふうに言われたのは始めてだ。


思わず沖田を見た顔を、慌ててまた逸らしてしまう。


本人は気づいていないが、顔が桜と同じ薄紅色に染まっていた。


それを見て微笑む沖田。


そこへ、桜の声が聞こえて来る。


「白鳴ちゃーーん!」


「……!」


どうやら、探しに来たようだ。


「じゃあ、今日はまたここで、お別れだね。」


「あ、あの…!」


「?」


「……な、なんでもありません……。」