中が見えない桶の中に声をかける。


「……お前は……あの時の娘さんか…?」


永倉もまさか、戻ってくるとは思っていなかったのだろう。少し驚いた感じがした。


「あの、これ……。」


白鳴は持って来た炊きたてのおにぎりを差し出す。


「これを…俺にくれるのか…?」


「少しですけど…、よかったらどうぞ。」


「ありがとな。」


永倉の冷たい手が、白鳴の手に触れる。


「……まだ、戻ってこないのか?」


「ええ。」


「はぁ……。まあ、仕方ないだろうな……。」


半分諦めかけているのか、状況が読めて受け入れているのか、永倉は冷静だった。


「永倉さんはその友人の方を、今も信じているんですか?」


「ああ、少し手間どってるみたいだが、あいつらは仲間をこんなふうにしておいて平気でいられる奴じゃないからな。今頃、シックハックしてんじゃねぇか。」


その仲間のことを想像したのか、少し笑っているようにも見えた。


中の様子は見えなくても、永倉の仲間に対する信頼の大きさは見えた気がした。


「信頼……されているんですね。」


「ああ、仲間だったら絶対に戻って来るって、分かるからな。」


遠くにいても、何年離れていても、この男はその友人を待ち続けるだろう。


手放した友人がいつか、必ず自分の元へ戻ってくると信じている。


なら、武市も待っているのだろうか……?


あの時、手放された時の約束を……。



そんなことを考えていると、自分を呼ぶ声が聞こえて来る。


「白鳴ー!白鳴ーー!」


「はいーー!」


こんなことをしている場合ではなかった。朝ごはんの仕度に戻らなければ、大変なことになる。


「戻るのか?」


「ええ。」


「お前も大変やけど頑張れよ!」


「………。」


励ましているつもりだろうか、その姿は見えないが、その言葉は嬉しく感じる。


白鳴は勝手場へと戻って行った。







作った朝食は大広間へと運び込まれ、芸妓達が一同に揃う。


上座から大夫と、位順で座って行く。


白鳴達見習い妹各の者達は、一番隅の下座に座ることになる。


その中の下に白鳴は座ることになるのだ。


夕べの物は全て掃除されており、朝は窓を開けて、朝日と外の冷たい空気を入れ、夕べの空気を全て外に出していた。


「それでは、皆揃ったところで、朝ごはんを頂こう。」