「分かっています。その時は自分でなんとかします。」
「……そうか。……ん?それはどうしたのだ?」
「え……?」
「頭に何か着いておるぞ?」
白鳴は頭に手を伸ばし、自分の頭を確かめるように触ってみると、何かが指先に当たる。
それを壊さないようにそっと手に取って見る。
「………!」
それは、あの桜であった。
いつの間にこんなところにあったのだろうか……。
「まあ、綺麗な桜だこと…。」
「………。」
桜に枝が着いているから、ささないとつけて帰ってはこれない。
だが、桜をさした覚えなどない……。
となると…、
「………!」
あの時の男だ……。
でなければ有り得ないことだ。いつの間にさしたのだろうか……。
「白鳴に良く似合ってるわ。」
「!」
胸がドキンと鳴る。
ただでさえ、このような有様なのに、話してしまっては大変なことになる。
「でも、枯れてしまいますね。」
白鳴は何でもないフリをして、使っていない湯呑みに水を入れて、その桜を生けた。
「でも、もう桜の季節なのね……。まるで、私達のようだわ…。」
「………。」
見えない桜を思い描きながら、明美は目を細めながら外を見た。
ある時は満開に咲き誇り、来る人々を楽しませるが、いつかはその役割を終え、捨てられてしまうのだ。
芸妓の暮らしも桜と似ているのだ。
「……あとで、明美姐さんの部屋に飾っておきます。」
「ありがとう。」
似ているものでも、桜を見ると癒される者は多い。
が、癒されて困ることも多いことも確かだ。白鳴は買って来たお菓子を小鉢に詰める。
「………手伝いは必要か?」
山住となっている仕事を見て、明美が尋ねる。
「いいえ、平気です。」
首を横に振る白鳴。この量の仕事を一人でこなすのは、相当の労力が必要だが、白鳴は手伝いを必要としなかった。
「……そうか、では何かあったら呼びなさい。今日の仕事はそれに専念すること、いいですね?」
「はい。」
返事を聞いてから明美は勝手場を出て行った。
廊下へと出ると三味線や琴を演奏する音が聞こえてくる。皆同じ妹各の者は試験に向けて、練習しているのだ。
だが、白鳴は何もしていない。
その事実が重くのしかかって来る。なのに、なんの力にもなってあげられないのだ。

