他にも買い物があったので、少し遅くなってしまい、荷物の重さがズッシリと白鳴の腕にのしかかる。
町へ出たのは、いつ以来だっただろうか……。
久しく出た町はとても賑やかだった。
川の近くまで来ると、薄紅の花びらが白鳴の目の前を横切る。
「……?」
上を見上げると桜の花が満開に咲いていた。薄紅色をした花びらが、風に誘われて雪のように、舞い散っていく。
「…………。」
白鳴はそれをしばらくの間眺めると、誰も近くにいないことを確かめ、川原へと降り、桜を後ろにして足元を流れる川を見つめる。
風が白鳴の髪の間を優しく吹き抜ける。
白鳴は襷を外すと、扇子を取り出し、あの舞いを踊り出す。
桜の花びらがまるでそれに合わせるかのように、ヒラリとヒラリと舞い落ちる。
そこへ、一人の青年が通り、足を止めた。
「………?」
一人の女の人が桜の木の下で踊っていた。歳は青年とそう変わらないぐらいなのに、まるで桜の使いのような、そんな感覚がした。
回りの音が聞こえなくなり、その舞いだけが青年の眼を釘付けにする。
ふいに、踊りが止まった。女がこちらに気づいたからだった。
女はこちらを見たが、それ以上の反応は見せずに、荷物を抱え川原から上がって行ってしまう。
「……待って!」
「!」
青年が女の手を掴んだ。女は驚いた顔をしていたが、ちょっと赤い顔をしていた。
「君、この近くの娘?」
「……!」
掴まれた手を振りほどこうとするが、青年が離さないように、しっかりと握っていた。
ナンパと思ったのだろうか、少し警戒しているような感じだった。
「どうなの……?」
「……そうです。」
「そっか…。」
掴まれた手が互いの熱で、汗ばみはじめていた。
「あの、離してもらってもいいですか?」
「……じゃあ、最後に質問してもいい?」
「……?」
「僕の名前は【沖田総司】。」
「……。」
「君の名前は?」
「……………。」
パアッと二人の間を風が駆け抜けて行く。
ヒラヒラと互いの間を、桜の花びらが舞う。
「!」
一瞬の隙をついて、白鳴は青年の手を振りほどいき、走って行って見えなくなってしまっていた。
沖田はそれを黙って見送っていた……。
「はぁはぁ……!」

