この、赤い髪をした日本人形を思わせる顔立ちの小間使いに、いつもの凛と張り詰めた雰囲気はない。必死に涙をこらえている彼女は、単なるか弱い一人の女性として、コウリュウの目に映った。


「いつかは・・・。」


下を向いたまま震える声で、イオリは呟く。


「コウリュウ様がコハク様以外の奥方様をお迎えするということを、私だって想像してはおりました。
でも、コハク様が旅立たれてより今まで、コウリュウ様が他の女性を意識するところを、見たことがございませんでしたから。
あ・・、少しだけ、ヤヨイ様に心奪われてしまいましたね。」


イオリは少しだけ口元を緩め、思い出したかのようにほんのり笑いを浮かべた。


「ですから、まだまだ先の話なのだと・・・勝手に思っておりました。
コハク様との思い出が色濃くて、私にはまだ想像がつきませんが。」


そこまで言うとイオリは、もう一度唇を軽く噛んでから、ほんのり涙を浮かべた笑顔をコウリュウに向けた。


「コウリュウ様のお隣に、コハク様以外のお方が寄り添う日が、ついに来てしまうのですね。」


思い返せば、いつもこうだ。


イオリは自分のために立ち回ったことなど、一度だってあっただろうか。常に頭にあるのは、コハクのため、ハクリュウのため、ヤヨイのため、そしてコウリュウのため・・・。