父に正攻法が通用しないという事を早々と察知したリョクは、この隙を利用してそっと部屋から抜け出そうと決意した。


そしてコクリュウに一生懸命目配せを送る。


その視線に気付いたコクリュウは、リョクの考えを理解したのか、そっと立ち上がった。


ゆっくりと、横歩きで扉に向かうリョクとコクリュウ。


一方ハクリュウはといえば、ヤヨイに気を取られていた事と扉に背を向けていた事もあり、コクリュウの行動を見逃してしまっていた。そしてその隣に、リョクが寄り添って居ることにも。


不意に自分を見上げていたヤヨイの視線が反れた事で、ハクリュウも反射的にヤヨイが向けた視線を追って振り返った。


「こら!リョク!」


コソコソとこの場から出ていこうとする二人の姿が目に入り、ハクリュウは咄嗟に叫ぶ。


怒っているような、泣いているような、何とも言えない表情でリョクを呼ぶハクリュウに、少しだけ罪悪感を覚えたリョクだったが、でも、ヤヨイを思わせるひまわりのような笑顔を向けて、緑色の髪の娘は深紅の部屋を後にした。


連れ立って出て行ったのは、もちろん黒衣に黒髪の真面目な青年。


彼は最大限に申し訳なさそうな顔をして、最上級の一礼をしてから足早にこの場を去った。