真正面から自分を仰ぎ見るその青年の、なんと穏やかで、優しげで、真面目な雰囲気をまとっていることか。


周りの事も、今置かれている立場も忘れ、リョクはその青年に見入ってしまった。


この10年を、ぶ厚い箱の中に入れられて育って来たリョクは、こんなに真近に若い男性と接する機会などなく、今まで過ごして来た。


『若い男とは大変危険で、野獣のような生き物なんです。
いつ何どき、牙を剥いて襲ってくるか、分かったもんじゃありません。
特にリョク様のように秀でて可愛い娘の事は、喉から手が出るくらい若い男は欲してきます。
いいですか!決して若い男に近寄ってはなりませんよ。
リョク様に何かあったら私は、ハク様に顔向けできなくなってしまいます。』


と、厳重にエミから脅されて・・・いや、申し渡されていたのだ。


危険だなんて嘘じゃない。
この人のどこをどう見れば野獣なの?
とっても優しそうだし、誠実そうだし、何より素敵。
エミはどうして危険だなんて、私に教えたんだろう。


自分より、10才程年上に見えるこの凛々しい青年の、どこがそんなに危険なのか、皆目見当のつかないリョクは、吸い込まれるようにその漆黒の瞳を見つめた。