隼人に逢いたくて、隼人の声が聞きたくて、音楽室に足音をたてずに、ゆっくりと進む。



明日待ってるから。



隼人は待っててくれて、いるだろうか?




そっと、音楽室のドアを開けると、ピアノの前に隼人が座っていた。



「亜子ちゃん〜おそいやん。」



「うん。ごめん、待ったぁ?」



亜子は、にこっと笑いながら、隼人の長い指先を見つめる。



長い指がこの黒くて、光る鍵盤に触れると思うだけで、亜子の鼓動はだんだん早くなる。




今なら、聞けるかもしれない。



でも隼人の口から聞きたい。




「隼人…早崎さんのことだけど…」



「あかね…?
あかねの事?何!?
もう、とっくにおわってんで!!」




体育館でキスをしている二人が蘇る。



「亜子ちゃん、疑ってるん?」



「ううん…」



早崎さんが隼人の首に手を回してた。



「たしかに、あかねとは前に、つきあっててん。でもな、今は何にもないで。」


「……」



亜子の瞳から、こらえきれなくなった、大粒の涙が溢れだす。




隼人…
信じても
いいの…?





「亜子、泣いてるん?ごめんなぁ、心配かけた俺が悪いわ。
もう、なかんといて…。」



隼人は亜子の頬をそっと撫でて、優しく制服のシャツで涙を拭う。