「君の悩みは、その辺にあるのかな」


「ふぅ……えぇ、両親の気持ちもわかるの。

私のために、少しでも条件の良い相手をと考えるのは当然ですもの。

でもね、もう決まったことだなんて言われると……ごめんなさい。

言わないつもりだったのに」


「いや、聞いたのは俺のほうだから」



つい、こぼしてしまった心の奥の思いだったのだろう。 

強気な姿勢を保ちながらも、彼女の繊細な部分が垣間見える。

珠貴の凛とした姿勢も好ましいが、その中に女性としてのもろさも見つけた

ようで、私にとって新しい発見だった。 





急勾配の螺旋階段を、彼女の手を握りながら降りた。

踊り場にたどり着くと、この前と同じように天窓を仰ぎ見るために 

「待って」 と私を引き止める声がした。

窓から差し込む明かりはクリスマスイルミネーションにより華やかさを増し、

珠貴の顔も輝いて見えた。

段差を二段駆け上がり彼女に近づき、「わぁ きれいね……」 と感嘆の声を

漏らす唇を掠め取った。



「……宗一郎さんったら、いたずらばかりなさるのね」


「じゃぁ、いたずらでなければいいんだな」



上から階段を下りてくる気配がして、二人ともそちらを見上げた。



「ほら人がくるわ。ダメよ、ここではダメ」



慌てて手を振って否定する珠貴は、何を言っているのかわかっていないようだ。

無意識にここはダメだが他の場所ならいい、そう誘っているのと同じなのに、

まったく無自覚にもほどがある。

愉快な気分になり笑いがこぼれる私を、何が可笑しいの? 笑わないでと

珠貴が口を尖らせる。

些細なことで言い合いはするが、決して本気で怒ったりなどしないゲームの

ような会話は楽しいものだ。


昨日の電話の様子から、彼女を送り届けた方がいいだろうと判断した私は、

今夜の席をアルコール抜きでやり過ごした。 

車に案内すると、どうして……と上目遣いに見る瞳があった。



「接待だったはず」


「一滴も飲んでないよ」


「それは、私を心配してくださったから?」



それには答えず、「ほら乗って」 と背中を押し珠貴を車に乗せた。


すべてを口にしなくても、心の変化を感じとれる。

そんな関係が心地良く、真夜中の街を気分良く走った。