12ホール


諳が見つめ静かな水面は、深い場所から静かに渦巻く。

「あれ…」
玉を司る亥月は、諳の言葉に静止した…と言うよりは、何かに絡まれた様に動けない。

「玉欲しさか…」
諳が呟き、舌打ちをする。

(その玉を寄越せ…)
直接脳に届く言葉に諳が応える。

「この玉は私の知人の物でな…くれてやれ…と頼んでやらぬ事も無いぞ?」

「諳?」
やっと声をだして諳を呼ぶ。

(…寄越せ…)

「そうだな…」
諳は手にした荷物を投げ出し、買って貰ったばかりの色鉛筆と亥月のレポート用紙に何かを書き込む。

(寄越せ…寄越せ…玉…)

気を抜くと水面に引き込まれそうな気がして、亥月も臨戦態勢に入る。

「何を描いてるんだ?」

「今、助けるぞ亥月!」

諳が描いていたのは、呪符だった。

その呪符に息を吹き掛けると、水面に何かが着水した。

「瓢箪??」
思わず亥月が言う。

「この瓢箪を水に沈めてみせろ…出来れば…この玉を差し出そう」

(容易い…容易い…)

水面に浮かぶ瓢箪が激しく揺れる。
しかし…
沈む事は無く、声の主が焦る。

(沈まぬ…沈まぬ…)

「…諦めて消え去れ…」

(沈まぬ…沈ま…ぬ…)
遠ざかる声と共に水面が穏やかになる。

やっと自由になった亥月が座り込む。

「何だ?今のは…」
瓢箪は諳が創った呪符に戻り浮かぶ。
呪符に手を伸ばしながら諳に目をやる。

暫く川を眺めていた諳だが、亥月に気付き、元の子供らしい表情を返す。