諳が見つめ静かな水面は、深い場所から静かに渦巻く。
「あれ…」
玉を司る亥月は、諳の言葉に静止した…と言うよりは、何かに絡まれた様に動けない。
「玉欲しさか…」
諳が呟き、舌打ちをする。
(その玉を寄越せ…)
直接脳に届く言葉に諳が応える。
「この玉は私の知人の物でな…くれてやれ…と頼んでやらぬ事も無いぞ?」
「諳?」
やっと声をだして諳を呼ぶ。
(…寄越せ…)
「そうだな…」
諳は手にした荷物を投げ出し、買って貰ったばかりの色鉛筆と亥月のレポート用紙に何かを書き込む。
(寄越せ…寄越せ…玉…)
気を抜くと水面に引き込まれそうな気がして、亥月も臨戦態勢に入る。
「何を描いてるんだ?」
「今、助けるぞ亥月!」
諳が描いていたのは、呪符だった。
その呪符に息を吹き掛けると、水面に何かが着水した。
「瓢箪??」
思わず亥月が言う。
「この瓢箪を水に沈めてみせろ…出来れば…この玉を差し出そう」
(容易い…容易い…)
水面に浮かぶ瓢箪が激しく揺れる。
しかし…
沈む事は無く、声の主が焦る。
(沈まぬ…沈まぬ…)
「…諦めて消え去れ…」
(沈まぬ…沈ま…ぬ…)
遠ざかる声と共に水面が穏やかになる。
やっと自由になった亥月が座り込む。
「何だ?今のは…」
瓢箪は諳が創った呪符に戻り浮かぶ。
呪符に手を伸ばしながら諳に目をやる。
暫く川を眺めていた諳だが、亥月に気付き、元の子供らしい表情を返す。


