12ホール


「はぁ…」
諳の溜め息を亥月は逃さなかった。

「どうした?疲れたのか?」

「違う…こんなに買ってもらうのは初めてだ…」
紙袋を抱えて諳が嬉しそうに言う。

「大した事か?服とかは流石に分からないから…母さんと選べよ」
殆どが諳の荷物である物を抱えた亥月が笑う。

病院からそのまま来た諳の荷物は少なかった。

「クレヨンでは無くて色鉛筆、お絵描き帳…本に靴…お菓子もだ!」
嬉しそうに笑う諳は、この数日で子供らしさが増した。

「はいはい…荷物増えたからバスで帰るか?」

「いや…歩く」

「歩くのか?」
少しうんざりな表情で先に行く諳に続く。


「ここ…さっきの道か?」
不安そうに諳が振り向く。

「違うけど…この川沿いを行くと社の裏に出る近道だな…」

「そうなのか?」
二人は水辺の石が転がる際を歩く。

「上の方が歩き易いぞ?荷物あるし転んだら手が使えないだろ?」

「構わない!こんなに近くで川を見るのは初めてだ」

「そうなのか?お前位の頃から紡衣様と麻幌との遊び場だったぞ?」

「……」
今まで賑やかだった諳の返事が無い。

「諳?」
亥月が振り返ると水面を見つめていた。

「どうした?魚でも居たのか?」
踵を返そうとする亥月に諳は強い口調で返す。

「そこを動くな!」