「この部屋は…懐かしい感じがする」
紡衣を追い越して諳が先に部屋に入る。
「こら!諳!!怒らせると大変なんだぞ?紡衣様は!!」
亥月は諳の腕を掴もうとしたが間に合わない。
「構いませんよ…諳様」
「そうなのか?私は麻幌の方が怖いぞ?」
並べられた呪具や、玉座を見ながら諳は言う。
「麻幌が何か?」
鴨居にの衣紋掛けに吊るされた式服に諳は触れる。
「…麻幌を探すのに私が過ぎた事をしてな…初めて…怒られたんだ」
それを嬉しそうに言う諳に二人は顔を見合わせる。
「館様…お茶の準備が整いました」
「分かった…」
一礼をして巫女装束の女が下がる。
「では…移動しましょうかね」
ニッコリと紡衣が笑いかける。
「もう?良いのか?紡衣様」
「残念ながら…此処には私の瓢は無いからな…」
亥月の問に答えたのは諳だった。
その表情は、この数日で覗かせた子供らしい物では無く、亥月を襲った時と同じく冷徹な表情である。
「ならば…この部屋に居る必要は無い…行くぞ…」
紡衣が亥月を促した。


