100メートルなんてあっという間。

大ちゃんが隣にいるから、余計に短く感じる。

「じゃあ、もう薄暗いし、気を付けて帰れよ」

優しく微笑み、菜摘の頭を撫でる。

この仕草がたまらなく好き。

大ちゃんのおかげで、この低い身長も好きになれた。

「…うん。大ちゃんも気を付けてね」

離れたくなくて

寂しくて

目頭が熱くなる。

でも、必死に堪えた。

意地でも強がりでもなく

ただ、困らせたくないから。

笑っていてほしいから。



まだ、ただただ“純粋に好き”でいられた

15歳の冬。



「じゃあ、またね」



─『またね』─



大ちゃんの口癖。

なんの意味も込めていないかもしれないけれど

言われる度に笑顔になれる。



─『また会えるよ』─



そう言ってくれてる気がするから。



そのたった一言が

たまらなく大好きだった。



「うん。またね」