11月中旬にもなると、もうすっかり冬の匂いがする。

あれから大輔とは、たまに連絡をとることはあっても

1度も会うことのないまま、もう1ヶ月が過ぎようとしていた。



「そうそう。なっつ、やっぱりやればできるじゃん」

「うん。菜摘天才かもしんない」

テスト結果は、自分でも驚くほど良かった。

数学の90点を見た時なんて、嬉しくてその場で泣いちゃったくらいだ。

でも気を緩めることなく伊織から勉強を教わっていた。

「…そういえば、山岸さんとはどうなったの?」

控え目に言う伊織に、ペンを持つ手が止まる。

「あー…振られたよ。彼女できたってさ」

自分で言ったのに、なんだか悲しくなる。

「…何それ」

いつもより数トーン低い伊織の声が響く。

慌てて視線を合わせ、できる限り微笑んだ。

「いいんだって。しょうがないじゃん」



─しょうがない?

本当にそう思ってるのかな。

自分でもよくわからない。

伊織は納得がいかないらしく、表情を歪ませた。

『だから言ったじゃん』と言わないのは、伊織の優しさだと思う。



たぶん─

いくら強がったり理解したふりをしていても

1番納得がいかないのは、菜摘自身かもしれない。