“またね。”


ドアノブに手をかけて回すと、重たいドアが静かに開いた。

そこは駐車場になってるけど、廃ビルに車なんてあるわけがないから、誰かいればすぐにわかる。

1番奥の手すりに寄りかかる人影が見えた。

ゆっくりと、歩み寄る。



「…大輔?」



ゆっくり振り向くと、すぐに菜摘から目を逸らし、俯いたままコンクリートに座り込んだ。

少し戸惑いながら、その隣にしゃがみ込む。



「…怒ってる…よね。ごめん」

どうして謝るの?

「…怒ってないから謝んないでよ」

『怒ってる』というよりは、『悲しい』という表現の方が正しい。

そもそも菜摘には怒る権利なんかない。

「かっこ悪いとこ見せちゃって、マジ恥ずかしいんだけど」

やっぱり大輔は目を合わせてくれなくて

足を伸ばし、ポケットから煙草を取り出した。

「…もう大丈夫なの?」

「うん。冷たい風に当たったらすぐ抜けた」

そんなにすぐ抜けるんだ。

ほんの少し安心する。

緊張からか、心臓が膨らんだような感覚を覚えた。

いつもより少しだけ寂しそうに微笑む大輔を見て、とても笑い返す気にはなれなかった。