自転車にまたがり、校門を出たところで電話をかける。

呼び出し音に初めて緊張する。

どんな声で話そうかな、なんて考えている自分が不思議で

ああ、これが恋する乙女ってやつか、なんて思った。



【…もしもし。どした?】

しばらく鳴ってから聞こえた、眠たそうな声。

いつもと少し違う声に、大輔と電話するのは初めてだと気付く。

「学校終わったよ!」

【はっ?まだ昼じゃん!】

そんなに驚いたのか、大輔の声が裏返る。

「サボって帰ってきちゃった!」

もうすぐ会えると思ったら、自然と声が弾む。

大嫌いな登り坂も、今日は楽々登れる。

【はあー?そんな俺に会いたいの?】

「うん」

菜摘は意地っ張りなりに素直だと思う。

電話の向こうから笑い声が聞こえた。

【お前素直だな。ありがと】

ライターの音が聞こえた。

寝起き1番に煙草を吸う人は、もう煙草をやめられないと聞いたことがある。

【あー…今どこ?】

「んと…昨日の公園らへんかな」

辺りを見渡す。

とにかく街の方へ、と夢中でこいでたから、現在地をいまいち把握していなかった。

【じゃあ今から行くわ。ちょっと待ってて】

「え?美香と寺田くんは?」

【あとでいいよ。とりあえずふたりで遊ぼ】

『あとでいい』って

『ふたりで遊ぼう』って

そんなの期待しちゃう。

美香には悪いけど、素直に嬉しい。

「…うん、待ってる」

【すぐ行くから、またあとでね】

電話を切り、自転車から下りてベンチに腰掛けた。

大輔とたくさん話した、あのベンチ。



遊具のない広い公園には、散歩している親子や犬が駆け回っている。

そんな風景を見つつ、日向ぼっこをしながら、大輔がくるのを待った。