「…ひとつだけ答えます。彼女いること知ってて、なんで関係持ったのかってやつ」

鋭い目で菜摘を睨み続ける真理恵さんの目を真っ直ぐ見た。



ひとつだけ。

それは1+1よりも簡単で

とても単純なこと。



「好きだから止められなかった。それだけです」



理由はそれだけ。

他に理由なんてない。

止められるものなら、菜摘だって止めたかった。

でもそんなの無理だった。



真理恵さんは握った拳をハンドル目がけて、力一杯に振り下ろした。

鈍い音が車内に響く。

それは真理恵さんの精一杯の我慢だと思う。

でも─

どうせなら、殴ってくれたらよかったのに。



「はあ?好きだから止められなかった?ふざけんなよ!人の男に手ぇ出しちゃいけねんだよ!そんぐらいわかんだろ!」

さっきとは別人じゃないかと思ってしまうくらい顔を真っ赤にしながら怒鳴り散らす。

「真理恵!やめろって!」

「お前は黙ってろよ!」

「黙ってらんねぇだろ!」

真理恵さんが大ちゃんの腕を振り払う。

それでも大ちゃんは、必死に真理恵さんを止めていた。



「結局はただのセフレでしょ!?あんたプライドないの!?」



─…その台詞が

やけに響いた。