部屋に光は差し込まないけれど

暗いままだけれど

時間は待ってくれない。

残酷に時を刻む。

お別れの時間。



「料金いくら?」

「知らない。1万くらいかな」

「お前、適当かよ」

大ちゃんはやっぱり笑いながら、1万円札を機械に押し込んだ。



「帰ろっか」



帰りたくない。

ねぇ、気付いてるでしょ?

離れたくないよ。

たった一言を聞きたいんだよ─



気付くと、大ちゃんの腕の中にいた。

抱き付いたんじゃない。

大ちゃんに、抱き締められた。

「ねぇ、どしたの?」

答えないことくらいわかってるけど、心臓がうるさくて─

「…ごめんね。なんでもないよ」

なんでもないわけないじゃない。

だって大ちゃん、少し震えてた。



ねぇ、『ごめん』なんて言わないで。

お願いだから─



「…そっか」



やっぱり聞いたって答えないだろうから、何も聞かない。

「帰ろっか」

その代わりに、手を繋いだ。



あんなに強く握ったのに

その手は、いとも簡単にほどけたね。



これが─

大ちゃんと過ごした、最後の夜。