“またね。”

唇が離れる。

大ちゃんは菜摘の髪に触れ、ふっと笑った。

「泣き虫」



─するのかと、思ったのに。



「泣かせたのは大ちゃんでしょ」



少しがっかりした。

ひとつになれないのなら

結ばれないのなら

せめて繋がりたかったから。



手が離れ、絡まっていた足がほどける。

運転席へ戻った大ちゃんに寂しさを覚えた。

近いのに遠い。

出会ってからずっと。

「行こっか」

サイドブレーキを落とし、ハンドルを握る。

「帰るの?」



嫌。

離れたくない。

まだ帰りたくない。



「帰んないよ」

大ちゃんが微笑むと、車が発進した。

帰らないんだ。

よかった…。

「狭いじゃん。車ん中」

ふいに聞こえた一言に、顔が熱くなる。

バレた?

それとも、大ちゃんも同じ気持ちだった?

「…うん。そだね」

場所なんてどこでもいいのに。

こんなこと言ったら、『変態』って笑われちゃうかな。



帰りの車は、至って静かだった。

話す必要なんてないから。

行きと同様、大ちゃんの姿を

目に焼き付けていた。