“またね。”

予想通り、着いた場所はホテル。

前とは違って少し広めの部屋だった。

大ちゃんの家に連れて行ってくれたら、少しは自信がついたかもしれないのに。

ほんの小さな期待すら打ち砕かれた。

もう本当に体だけの関係だと思い知らされる。



それでも拒まないのは─

大ちゃんが、一瞬でも

ほんの一瞬でも、菜摘だけを見てくれるのなら

なんでもよかったから。

例え、体だけの関係でも。

矛盾にも程があるよね。



部屋に入ると、大ちゃんはすぐに菜摘を押し倒した。

強く掴まれた手首が痛い。

もっと強く、アザがつくほど強く握ってほしい。

手錠をかけて縛り付けてほしい。

決して離れることのないように。



─わかってる。

ちゃんとわかってる。



「菜摘」



時折名前を呼ぶ、切なく愛しい声が

余計に胸を締め付ける。



わかってるから

お願いだから

今だけは、何も言わないで。

誰も邪魔しないで。

一瞬の儚い夢を、永遠に見ていたいから。



「大ちゃん…」



名前を呼び返すと、大ちゃんは切なく微笑んだ。



2人しか知らない、2人だけの世界。

あなたとなら、私は何度だって夢を見られる。



もう、大丈夫だから。

夢から覚めても、あなたを責めたりはしないから。



だから、笑って。

私も笑うから。