きつく睨み付ける。

少しでも油断したら涙が溢れてしまいそうだ。

「ちげぇよ!俺菜摘好きだって言ったじゃん!」

菜摘の腕を掴み、真剣な顔で言う。

「じゃあなんで別れてくんなかったの?『他に好きな子いる』って言えば済む話じゃん!」

つい出てしまった本音。



だって、待ってたのに。

たった一言を、信じていたのに。



「…ごめん。色々あるんだよ」



大ちゃんは腕を掴む力を弱め、少し寂しい目をした。

涙は見せまいと、必死に歯を食い縛る。



「…またそれじゃん」



ずるいよ。

いつだって大ちゃんは何も言ってくれない。

本当のことなんて、何1つ教えてくれない。

肝心なことは絶対に言わない。

信じたかったけど、もう無理だ。

菜摘はそんなに強くない。

『色々あるんだよ』

そんなこと言われたら、何も言えなくなるじゃない。

ずるいよ─



「…帰るね」



それが、やっと出た言葉だった。