途切れることを知らなかった会話も、もう終盤に近付いていた。

「もう9時だし、帰ろっか」

携帯で時間を確認する。

…本当だ。

もうそんなに時間経ったんだ。

もっと話したいのにな…。

「うん…そだね。帰ろっか」

同時に立ち上がる。

大輔の腕の中から抜けただけで、嘘みたいに寒い。

「んな落ちないでよ。じゃあいつでも会えるように、アドレス交換しよっか」

あからさまに落ち込む菜摘を見て大輔が微笑む。

差し出された携帯は菜摘の携帯と同じ機種で、そんなことがすごく嬉しかった。

「うん!する!」

大輔から言ってくれるなんて思わなかったから、つい頬が緩む。

これからはいつでも会えるの……?



アドレスと番号を交換して携帯を閉じる。

下から顔を覗くと、大輔はニッコリと微笑んだ。

とても、優しい笑顔。

「気を付けてね。時間遅いし心配だから、家着いたらメールして?」

「うん。わかったよ」

心配してくれてるんだ。

ただの社交辞令かもしれないけれど、それでも嬉しい。

「送ってあげらんなくてごめんね。じゃあ、またね」

「チャリだから大丈夫だよ。またね」

大輔は菜摘の頭を軽く撫でると、手を振りながら帰って行った。

大輔の後ろ姿を少し見送り、すっかり冷たくなった自転車にまたがる。

そして菜摘も、家路を急いだ。



一目惚れなんて、信じてなかった。

ありえないと思ってた。

それなのに、もう好きになっていて

大輔の大きな手や背中。

温もりや優しさが、

頭から離れなかった。



たった一瞬で

恋をしたんだ。