大ちゃんが平然と言うから、驚きのあまり声が出ない。

鼓動が早まり、顔が熱くなる。

冗談言わないでよって、笑って流せないのは

冗談じゃないってわかってるから。



『彼女いるくせに』

この一言がどうしても言えない。

『言えない』んじゃなくて『言いたくない』。

断ることなんかできないし、断りたくもない。

「嫌ならいいからね」

嫌じゃない。

嫌なわけがない。

だって─

気持ちを伝え合った日から、いつかこうなるだろうと思っていたから。

大ちゃんとそうなることを、自ら望んでいたから。



「…ううん。行く」



菜摘の返事を聞き、大ちゃんは車を走らせた。

ここからホテルまでは、車で2・30分くらいだ。

その間、2人は一言も交わさなかった。

大ちゃんといるのに静まり返っているなんて、そんなの初めてで

その沈黙が、これからのことを示しているようだった。



まだ付き合ってないし、大ちゃんには彼女がいる。

でも、体でもいい。

なんでもいいから─

大ちゃんと繋がっていたい。

そうでもしなきゃ─

『本当に別れるのかな』

『このまま終わるんじゃないか』

日に日に募る不安をごまかすことができないから。